先輩起業家・経営者インタビュー

中小企業のバックオフィスを自動化して、日本のビジネスを元気にしたい。/佐々木 大輔/EIP5期生/freee株式会社 代表取締役

プロフィール

佐々木大輔/freee株式会社/EIP5期生
一橋大学商学部卒。大学在学時よりインターネットリサーチ会社のインタースコープ(経営統合を経て、現在はマクロミル)にてインターン/契約社員としてリサーチ集計システムや新しいマーケティングリサーチ手法を開発。博報堂→投資アナリスト→ベンチャーCFO→Googleマーケティング担当を経て、2012年7月、freee株式会社(www.freee.co.jp)を起業。

全自動のクラウド型会計ソフト「freee (フリー)」

 

博報堂→投資会社→ベンチャーCFO→Googleと異色のキャリアの末に起業し、シリコンバレーから資金調達、飛ぶ鳥を落とす勢いで事業を展開している佐々木さんに、学生時代に寝食を忘れてITベンチャーのインターンに没頭した日々や、「テクノロジーで人を面倒なことから解放したい」という事業の先に見据えるビジョンについて伺いました。

大きなアンケートデータを好きに分析していいよと言われた時、そんなに楽しい仕事はないなと思いました。会社に日曜日の夕方に出社して、次の土曜日の朝に帰るような生活サイクルでインターンをしていました。
大学ではどのような学生生活を送っていて、なぜインターンシップをしようと思ったのですか?

sasaki01大学1年から2年までは体育会系の部活に所属していました。3年生になって自分の将来を考えたときに、スポーツであと2年過ごすのと、もう少し自分のためになるような過ごし方をするのと、どちらにしようかと悩みました。絶対留学したいと思って大学に入学したことを思い出して、奨学金とって留学することを決めました。あとは残りの学生生活を、自分へのダイレクトな投資に使いたいなと思って。大学では商学部だったので、マーケティングなどを勉強していましたが、何か面白くないなと思っていました。明確な答えもない学問なので、これを学ぶよりも、より自然科学に近いものを学んだほうが、得るものが大きいのではないかと思っていました。

それで、私が一番面白いなと思ったのが、ミクロ経済学の授業で出てきた「ギャンブルをする人の効用曲線」でした。大抵の人は、もらえるお金がある程度高くなるとそれ以上増えても満足度はあまり上がらないのですが、たまに期待値が高ければ高いほど、例えその確率が低くても、大金を手にできるチャンスに満足度を感じる人がいます。そのように、人の行動を数学的にモデル化する、整理するという考え方が大変面白いなと思っていたこともあって、3年生になって統計のゼミに入りました。それがすごく面白くて、一生懸命勉強していました。そうしているうちに、学問としてやるだけではなくて、現実問題に応用してみたいと思うようになりました。

また、今でこそビックデータと言われるようになっていますが、当時はデータマイニングが走り始めたころで、そういうことやるためには、実践的なプログラミングスキルが必要だということがありました。そのようなことを考えていた矢先、たまたま友達に、インターンをしてJAVA(プログラミング言語)を書けるようになった、という話を聞いて、それがETIC.のインターンでした。じゃあ自分も行ってみようと思って、ETIC.に行ったら、インタースコープという会社を紹介されました。そのときは、プログラミングができるようになりたい、データ分析を生でやれるような機会があればいいな、くらいの気持ちでいたのですが、それにぴったり合致するのがインタースコープのインターンだったので「ぜひやりたいです!」と即決しました。

インタースコープ(現マクロミル)はどのような会社で、佐々木さんはそこでどのような仕事をされていたのですか?

インタースコープはインターネットリサーチの会社です。今でこそあまり見かけなくなりましたが、昔は駅前に「このアンケートに協力してくれる人、図書券2000円あげます」と掲げたおばちゃんが立っていて、企業はそのようにして路上で取ったアンケートを新商品開発のために活用していました。でもそのやり方だと、アンケートを取るために人を雇っているので、お金がかかるわけです。インタースコープはインターネットを使って調査をすることで、既存の調査より安く済み、そして、ただ安いだけではなくて、データの取り方の精度が高いのです。紙でやっていると矛盾した回答がいっぱい出てくるのですが、プログラムを書いておけば矛盾回答が防ぐことができます。また、同じ人がこの時にこう答えて、3ヶ月後にはこう答えてという、関連性もとれるので、消費者のデータベースみたいなものもつくられます。それを分析すれば、消費者の行動予測みたいな、科学的な予測モデルが作れるのではないかと。インターネットだからこそできる付加価値のある調査手法、分析手法を実現しようというのがインタースコープでした。

その当時は創業2年目で、社員約8名に派遣社員・インターン生合わせて総勢20人ぐらいで動いていました。最初に入ってまず任された仕事は、大手メーカーの2000〜3000万円くらいの仕事でした。大きなアンケートデータを好きに分析していいよと言われたので、そんな楽しい仕事ないなと思って。何百ページもある調査報告書を様々な切り口で書いていって、これはだめだ、あれはだめだと、今度は半分くらい切り捨てたり、毎日寝ずにひたすらグラフをつくったり、企画書をつくったり、それを要約したサマリーを作ったり。一ヶ月くらいは、ほぼ、日曜日の夕方に来て、次の土曜日の朝に帰るような生活サイクルで、ずっとオフィスに泊まって仕事をしていました。

アンケートデータの分析は面白かった一方、やっていることはすごく非効率で。WEBでアンケートをして、その結果を分析しますと言ったら、せめてそのデータはまとめてダウンロードできるだろうと想像するのですが、当時の仕組みはまだ初歩的で、誰かがアンケートに答えると、その結果をExcelにコピー&ペーストして、手動で数えていました。すると、よく計算を間違えて上司から怒られていました。データを売る仕事なのだから間違ってはいけないと。でも手動でやる以上、絶対に間違えてしまいます。それがすごく悔しいと同時に、絶対に自動化した方がいいと思いました。自動化できれば、集計業務から解放されてより会社がやりたい高付加価値なことができるだろうと。そこで、社長の山川さんに、「僕はこれ二度とやりたくないから、自動化させてください。そうでなければ僕やめます。」と話をしたのですが、「じゃあ他の仕事は一切やらなくていいから、その自動化のプログラムだけやりなさい。」としばらく時間を頂きました。出来たプロトタイプはバグだらけのプログラムだったのですが、山川さんが最初は使えない仕組みであったとしても、絶対に正しい方向だから、みんなこっちに行くのだ、と社員全員に私が開発したプログラムを使うようにしてくれて。おかげで、その後は社員の方々もインターン生も、より高付加価値な仕事ができるようになりました。

インターンの経験で特に記憶に残っているエピソードはありますか?

sasaki022つあります。1つ目は、3ヶ月目、4ヶ月目のある日、突然、社長の山川さんが私の机に論文 のコピーを持ってきました。商品の価格・値付けに関するマーケティングリサーチ手法が書かれているものだったのですが、ぱっと見たところ、難しくてよく分からなかったんです。でも多くの企業が自社商品の値付けをするときに、どうやったらいいか困っているから、商品の値付けの際の面白い調査手法を考えついたらきっと素晴らしいことだから、考えてみて!と言われて。すぐにじっくり読みましたが、まったくもって納得いきませんでした。海外の文献も調べて、おおよそ言いたいことはわかってきたのですが、日本に持ってくるときに、日本の学者たちが表層的なところだけを読んでいて、本質を捉えていないと感じました。そこで、もともとこれを考えた人はこういうことやりたかったのではないかと解釈をして、消費者が視覚的にわかるような曲線を書くための調査手法を作ったのですが、それがわりと話題になったんですね。その価格に関する新たな調査手法をインタースコープがリリースしたときに、日経の企業欄に掲載されました。その後1年休んで留学に行き、帰国後にはその調査手法について論文を書くのですが、今度はそれが日本マーケティングリサーチ学会の論文になって、マーケティングの教科書に引用されたりしました。それがもう嬉しくて、こんなことができてしまうのだという鼻高々な感じでした。

2つ目は、私が留学から帰ってきて、就職するまでの期間、もう一度インタースコープで働きはじめたときのことですが、社員が増えていて、私のことを知らない人たちばかりになっていたんですね。社内では「インターンの佐々木くんが戻ってくるらしいよ」という感じだったらしく、出社したら、佐々木くんそこに座っていてと言われ、インターン生が座る年季の入った机に座っていたのですが、それを見た山川社長が激怒して。「佐々木くんをここに座らせたのは誰だ!彼は社員よりもすごい功績を残しているのに、このように扱うやつは誰だ、出てこい!」みたいな感じでした。それは嬉しかったです。また頑張りたいなって思いました。

会社に泊まり込むほど、インターンシップにのめり込めたのはなぜですか?

ここにいると常に自己実現できると思える環境があったからでしょうか。今の時代よりも、良い意味でインターンに就活色がなく、「自己実現欲求の大きい奴らがやること」という捉えられ方だったので、周りからは馬鹿なんじゃないの?と言われつつも、インターンをしている人たちの間では、「ベンチャーでインターンするって面白いよね」と盛り上がっていました。自分のしたことが、結構、価値のあることなのかもしれないという感覚があって。例えば、1つのリサーチプロジェクトから、クライアントに新しいアイデアが生まれて、新商品の企画につながったとか、世の中を刺激するキッカケがつくれたとか、そういったコトに対してのめり込んでいったのではないかなと思います。おそらく、それはその後も一貫してそうで、これがいろんな人の役に立つかもしれないとか、新しい活力になるかもしれないとか、そういう感覚がありました。しかも、メンターがいたし、仲間がいたし、ちょっとくらいならお金も使わせてくれたし、何と言うか、本当にいい「砂場」があったという感じです。先ほどの本ではないですけど、一人だと特にアイデアもなかったところに、ある程度方向性みたいなものを出してくれたり、キッカケを与えてくれたりしたので、この会社のリソースがあれば、何か新しい価値を生み出せるかもしれないと思いました。

期待されていることがものすごく高く、無理難題を突きつけられているときにむしろ、燃えました。

sasaki03

周りの大学生が就職活動をしているころに留学していたと思いますが、当時の心境はどのようなものだったのでしょうか?

留学には3年生の8月から4年生の5月まで行っていました。帰ってきた時には、就職活動真っ盛りというか、すでに終わっているところが殆どで。エントリーシートは留学中にも出していたのですが、会って話しましょうとなっても、いけないわけです。それならあんまり意味がないなと思って。そのような状況で帰国したので、どうしようかと悩み、大学院に行こうかなという気持ちもあったのですが、とりあえず就活しよう決めて就職活動をしました。でも、そのときには通年採用の会社があまりなく、後に新卒で入社する博報堂含め、3社だけ受けました。博報堂は、「広告代理店」というものが、インターン先でもあった「リサーチ会社」の重要な顧客だったことと、幅広い業種と関われそうだという思いで決めました。

博報堂での仕事は、インターンでやっていたことが活きるようなものだったのでしょうか?

博報堂では、様々な企業のマーケティングリサーチをして、それをもとに、マーケティング戦略やコミュニケーション戦略の企画書を書いたり、代理店同士の競合プレゼンをするときに、僕たちはこういう考え方でこれを作っていますという資料・ストーリーをつくっていたりしたので、良い意味でも悪い意味でもインターンの時と似た仕事をしていました。ただ、よりダイレクトに大企業と仕事をするし、動くお金も全然違うし、スケールが大きくなったなあ、という感覚でした。博報堂での仕事は2年続けて、その間にマーケティングチームの一員として多くのプロジェクトに関わったのですが、大企業なので、「君、一年目の誰々だね。」とか、「まだ2年目なんだね」とかプロトコルがあって、毎日カチンときてました(笑)。楽しい仕事はあるのですが、周りが「あーまだ2年目だからね」というような感じで期待値を下げてくるんです。インタースコープでインターンをしていた時は、期待値がものすごく高いので、頑張ってそれについて行こうとしていたのに。期待値が低いので、こんなのでいいのかなとか思いながら毎日やっていました。インタースコープではこれぐらいのこと高い水準のこと求められるから、むしろ、「なんとか、やってやろう!」と思うのに、逆に博報堂ではあまり求められませんでした。いくつかこれは面白かったなという仕事はあって、例えばある大手企業が金融会社を買収した後に、買収後の金融会社のマーケティング戦略を全て見直そうというプロジェクトがあるのですが、その仕事は、期待されているものがすごく高く、無理難題を突きつけられている感じだったので、とても燃えましたね。

博報堂の後、投資銀行、ALBERT、Googleと転職をされますが、その経緯を教えてください。

sasaki04当時はハゲタカファンドが流行っていて、業績が良くないけど資産は持っている会社を買収して再建して、売るというビジネスが流行していました。ダイエー、カネボウやポッカといった企業が、次々にそのような形で再建していたのですが、その時ある香港の投資銀行が日本でもそういうビジネスを始めるということになって、その立ち上げのために人を探しているという話を頂いて。「ただの広告代理店の人間だけどいいのですか?」と思いつつも、面白そうだったので、博報堂を辞め1年くらい投資の仕事をしていました。しかし、そこもまた、私がいる間にどんどん人が増えてしまい、次第に面白くなくなってしまいました。吸収できることは吸収したなと。同時にその時、自分は投資する立場よりも、自分で事業を作っていく方に興味があるのだなと、感じました。

ちょうどそのころ山川社長が新規事業として立ち上げた事業が、インタースコープがYahoo!に買収されたタイミングで、独立して会社になるということで、そちらに移りました。ALBERTというベンチャーです。そこは消費者行動を予測して、家電など買うときに、あなたにはこの種類がぴったりですよとオススメするレコメンド技術を使ってサイトを作っていました。サイト自体はそこそこ流行るのですが、事業として十分な規模に成長させることに苦戦していました。そこで、事業戦略をB2Bに転換させ、もう一回資金調達もしましょうという話になって。ずっと投資の仕事をしてきたので、ベンチャーキャピタルからお金を集めるのは任せて下さいということで、資金調達もしつつ、B2B向けのプロダクトを開発して事業戦略を転換させるということをしていました。それはすごく面白かったです。事業をつくることに興味があるのだと改めて実感できたし、山川さんと仕事しているときは期待値がすごく高くて。そんな中、グーグルからお誘いがありました。

今でこそGoogleとYahoo!の検索のシェアは拮抗していますが、私がGoogleに入った2008年ごろはまだ Google のシェアは低く、日本市場においてGoogle 製品をひろめるに際してマーケットをより深く知るための分析をしたり、消費者の行動をまっさらな状態から戦略に落とし込んだりするチームを作りたいという話があって、それに呼ばれました。これは面白そうだなと思ってALBERTからグーグルに移りました。その後、中小企業向けに広告サービスを拡販し、顧客基盤を拡大するところに機会があるということがわかり、私はAdwordsの中小企業マーケティングチームを作ることになりました。新しい取り組みをさまざま行い、日本市場で一定の成果を残すことができたので、今度はアジア全体に展開しようという話になり、そのチームのベストプラクティスをアジアに展開するという仕事をしていました。それは楽しかったですね。グーグルには5年弱いましたが、1つ上手く行ったと思ったら次のクオーターには目標が倍になっていたり、気付いたらアジアもやろうとアジアチームが出来ていたり、インドのローカルスタッフを採用するため、非常に多くのインド人を面接したり。それまでやっていたこととは別次元だったので、インターンをしていたときばりの充実感でした。

日本は、人が起業する割合がOECD諸国のなかでダントツで最下位です。中小企業マーケットを考えた時、日本は今後、投資をジャスティファイしづらいマーケットになってしまいます。
起業することがゴールにあったわけではないと思いますが、どのような想いで起業されたのでしょうか?

sasaki05Googleで働いていた時、アジアの中小企業向けマーケティングの仕事をしていましたが、日本の中小企業マーケットは、今はまだよくても、今後は投資をジャスティファイしづらいマーケットになってしまいます。たまたまGoogleは、中国におけるビジネスがなかったので、アジアにおいて日本を重視していましたが、人が起業する割合が、日本はOECD諸国のなかでダントツで最下位です。「日本はこのままでいいのか?」と考えるわけですが、その時、私の生き方は2つに1つだと思いました。一つは完全にグローバルな人として生きる。自分の国がどうこうというのは、もう忘れて自分はグローバルに、冷静に考え詰めて、次のマーケットはどこにあるのか・そのために何をやっていくのかということを考える人間になる。それがプランA。それに対して、もう一つのプランBは、これは大問題だ、日本に対して自分も何かできないかアクションを起こそう、と強い問題意識をもって生きること。

どちらの生き方がいいのか考えているときに、海外出張ばかりしている「グローバルな」生活も少し疲れたなと思って(笑)。それに、Googleは本当にたくさんの人が起業します。アメリカの本社に行ったら、「自分のビジネス始めるので、やめます」という人にたくさん出会いました。起業家精神というか、シリコンバレー的なカルチャーがあるんですよね。それで、自分でもビジネスをやってみようと、始めました。なので、それほどたいそうなストーリーがあるわけではないです。

起業しようと決めた時、頭にあったのが、日本のスモールビジネスはこのままでいいのか?ということでした。例えば、日本の中小企業は、今でもファックスを使っています。それは事実としてあるのですが、それをタイやインドの人が見たら大笑いする。日本の中小企業の中で、何らかのクラウドサービスを利用しているのは17%で、アメリカの54%と比べると、先進国と途上国ほどの差が開いています。「日本がこのような状況になってしまっているのは悲しいなあ。」と思いました。アルベルトではCFOをやっていたので、財務や経理もやっていましたが、インターネットベンチャーのアルベルトでも古い会計ソフトを使わなければいけなくて。別のものも探しても無くて、仕方なく使っていましたが、このようなソフトはすぐにクラウド化されるだろうし、将来駆逐されるのだろうなと思っていました。でもそれから5年経っても何も起っていない。アルベルトにいたときに私と一緒に経理を担当してくれていた人が居たのですが、大変優秀な人なのに一日中領収書・請求書をカタカタ打ち込んでいて。パソコンにインストールして使うソフトだったので、インストールされていないと数字は見られず、ベンチャーキャピタルなどに、「今月費用が伸びているのは何ですか?」といわれてもパッと答えられないという不便さもありました。さらに、会計ソフトを使うにも簿記の知識が無いと使えないということがありますよね。海外の中小企業の経営をサポートするツールは大変進んでいて、会計の知識が無い人でも企業のバックオフィスはクラウドで全部出来るのに、日本はまだファックスを使っていて、全くそこまで至っていない。そのような状況なので、このセグメントなら何か新しいことが絶対できるはずだと思って、ここで価値を生めそうだと思って、他にやる人も居ないので、起業しました。

佐々木さんたちが開発した全自動クラウド会計ソフトについて教えてください。

sasaki06従来の会計ソフトはパソコンにインストールして使うものが殆どなので、基本的にインストールされたパソコンでしかデータが扱えず、領収書や請求書を全て手入力しなければなりません。一般的な経理のプロセスと言えば、一ヶ月分の領収書や請求書の束があって、それを日にち順に並べてただひたすら打っていく、大変な手間です。サービス開発の過程で、「実際にどのように帳簿をつけているか見せて下さい」と中小企業の経理の作業過程を録画させてもらったこともあったのですが、領収書と入力画面を何度も行き来したり、間違えて修正したりと、手で入力することの手間が伝わってきて、自動化すれば作業を楽にできると確信できました。私たちのクラウドの会計ソフトでは、まず紙でやるという発想から離れましょうと言っています。例えば、銀行口座やクレジットカードの明細を見れば、どのような使途でお金を使ったか、大まかに分かります。タクシーを利用してクレジットカードで支払えば、明細に「タクシー」と表示されるので、これはタクシー代だろうと機械でも推測がつきます。使途別に分類するのも簡単です。全て自動で入力・分類されるようになるので、人は確認のクリックをするだけで、会計帳簿ができてしまいます。何にどれだけのお金を使っているか、どの取引先にどのようなトレンドで商品が売れているか、簡単にレポートで出せますし、大きな特徴として、決算書が自動で作れてしまいます。テキスト分析をしているので、間違えることもありますが、その場合にも、経理の知識がない人でもわかるようなメニューが出てきて、簡単に選べるような仕組みになっています。

sasaki07また、これまでの会計ソフトは、財務諸表のような細かい数字の羅列が出るだけで、すぐに経営に役に立つというよりは、じっくり読み込まないと分からないものだったのですが、日々ビジネスをしている経営者であれば誰でも、「今、経営はこういう状況なのだ」と、パッと分かる。知識がなくとも自動で帳簿をつくっていって、そのデータが経営に活かせるインサイトにつながるというのが、私たちが開発している全自動クラウド型会計ソフトの仕組みです。さらに、個人事業主の方であれば、自動で青色申告用の決算書に出力するので、あとは税務署にそれを届けるだけで申告が出来ますし、会社の場合にも、簡単に経理が出来る形で決算書を出力します。

起業のしやすさという観点でも、日本は世界で最下位に近いのですが、バックオフィス周りが難しいということは、その大きな原因になっていると思います。このような変化によって、日本の中小企業のクラウド化を進められれば、技術の活用という点から中小企業を応援できると思いますし、知識がなくても簡単に会計ができるとなれば、起業の後押しができると思っています。

シリコンバレーのベンチャーキャピタルから資金調達をされたと伺いました。なぜ国内ではなく、シリコンバレーだったのでしょうか?

1つは、今、世界中で「freee」のようなファイナンス関連の分野に投資が集まっています。ソーシャルの次に何なのかといったところで、教育やファイナンスが盛り上がりを見せています。そのような傾向を一番早く察知して、理解してくれるのは、シリコンバレーのベンチャーキャピタルでした。日本ではまだまだソーシャルの空気が熱く、注目して頂けなかった時期に、最初の頃から良き理解者でした。2つ目は、担当のパートナーの方々と話していると、考え方のスケールをものすごく広げてくれます。そのベンチャーキャピタルはアメリカと中国と日本を投資対象にしていて、それぞれ同じ投資基準で投資しているのですが、アメリカや中国のスタートアップというのは、スケールが驚くほど大きい。中国は何をやっても経済が伸びていく状況ですし、アメリカには、スタンフォード大学に通う学生であれば全員起業したいと言われるほど、激しい競争があります。そのアメリカや中国の起業家と同じポートフォリオ、同じ土俵に立たされるとなると、いい意味でのプレッシャー・緊張感になるし、そのような高い期待に応えられるようになりたいと思っています。

サービスイン後の反響はどうでしたか?

今年の3月にサービスをリリースしましたが、幸いなことにたくさんのメディアに取り上げて頂き、ビジネス向けのサービスとしては、大変良い反響をもらっています。今、始めて一ヶ月半立ちますが、すでに3000を超える事業所からお申し込みを頂いています。(2013年5月取材時)コンシューマー向けだと3000人は大した数字ではありませんが、これだけ短期間に増えることはなかなか見られないことなので、その点では良い3ヶ月目を迎えられたと思っていますが、今後サービスを有料化して、ビジネスとしても拡大していければと思っています。

今後はどのように事業を発展させていくのでしょうか?佐々木さんのビジョンを聞かせてください。

sasaki08中小企業は国内に600万社あると言われているので、そこにどれだけ早く浸透できるかですが、国内では100万社に使われる仕組みをつくりたいと思っています。世界に展開していくことも、考えています。海外では中小企業を支えるツールが進んでいると話しましたが、「freee」は海外でもまだ例がないレベルで自動化することに成功しています。後発であることは変わりませんが、世界に出て行けるチャンスはあると思っています。ただ、セキュリティや法規制が国ごとに異なるので、ソーシャルメディアのように全世界に一度に展開という訳にはいきません。日本でしっかりと実績をつくっていくことがまずは重要になると思います。

究極的には、中小企業のバックオフィスを全て自動化したいです。給与計算や社会保険の手続きなど、起業してみないと分からない面倒な手続きは色々あるのですが、一つずつ自分自身で触れていきながら、これも自動化できる、これもまた自動化できると、経営しながら気付く新しいアイデアがたくさんあります。それらをクラウドで、かつ会計ソフトから始めることのメリットは、お金の計算がビジネスにとって絶対に欠かせないもので、必ず何か別のことに結びついているということです。例えば、「会計」に紐づいている「給与計算」であれば、今のソフトに勤怠情報さえ入れれば、給与の計算も自動的に帳簿に記録することもできます。それがさらに自動的に振り込まれるところまでくると、大変便利ですよね。私の叔父は美容院を経営しているのですが、いまだに毎月手で給与計算をして、封筒で渡しています。そういった光景をみると、これはすごくいろんなことができるのではないかと思っています。

起業後、苦労されていることはどのようなことですか?

優先順位をどのように決め、やらないことをどのように決めるか、だと思います。時間はインタースコープにいた時もなかったのですが、インターン時代や会社員のときは、自分の役割やミッションが限られていました。会社を経営する場合、極端に言うと何にでも時間を掛けられてしまいます。経営することは、おそらく「360度」なのだと思います。私がGoogleで中小企業のマーケティングをやっていた時は、それなりに裁量もありましたし、自分にある程度任されていたと思うのですが、所詮「30度」くらいしか見ていません。30度で攻めてくる相手と戦うようなイメージなのですが、それが会社を経営するとなると、360度に広がります。優先順位を決め、どこに重きを置いて進めていくかを見失わないようにしないと、本当にもの物事が進まなくなります。

私たちはサービス命なので、いいサービスにするためにどうすれば良いか、日々考えるのですが、間違えると、すぐに思考停止になってしまいます。こんなことがあった、ユーザーからはこういう意見が出ている、それを総合すると何もできない、という状態です。これまで、それほど大きく外したことはないのですが、割り切って、この方向が正しいということを決めるというのはやはり大事ですし、それに周りについてきてもらうのが難しいです。優先順位を決める上では、「これがあることによってどれだけユーザーが楽になるのか?」というポリシーを判断軸にしています。色々な人の意見や要望を聞くがゆえに、結果的により複雑になってしまうという答えも多々あります。そうならないように、何が、どれだけ楽になるのか?という問いは、皆で突き詰めて考えるようにしています。そして決めたら、あとはやるのみ。やってみて、形にしてみて、本当にユーザーにとって価値あるものなのか聞いてみる。決めたらそれ以上は議論せず、ひたすら頑張ってつくることを繰り返しています。

インターンシップの経験は、今の佐々木さんの働き方やビジョンに、どのような影響を与えていますか?

大企業と比較すると、ベンチャー企業や小さな会社はビジネスとしてのリスクは圧倒的に高いですが、その分個人の裁量は大きいですし、個人の力に頼らないといけないので、圧倒的に成長できます。私は起業家になりたいと思っていた訳ではないですが、仕事を通して世の中に価値を生むことに対してはこだわってきました。ベンチャーには、それができる環境があると思います。会社に所属するという意識ではなく、自分はどのような価値を発揮するのか、バリュー生み出すのか?一番身に付くことのスピード感が早いのがベンチャー企業だと思います。それに、山川さんや平石さんに出会えたのも大きいです。インターンを社員と同等もしくはそれ以上の立場として扱ってくれた人達で、何かやってくれるのではないかと、期待感を持ってくれた人達でした。私の会社でも頑張っているインターン生がいますが、エネルギーあり余った人の組みあわせが、シナジーを生むのではないかと思います。

最後に、これからインターンをしようと考えている学生に、メッセージをお願いします。

インターンに臨む姿勢で言うと、「教えてもらう」という姿勢はだめだと思っています。教えるとか、習うとか、身につけるとかではなくて、ベンチャーというインフラをどれだけ活用して自己実現するかということだと思います。そして、それが自分の自己実現だけだと何も価値にならないので、会社の価値と自分のそれとの共通点をうまく見つけて、自己実現していく。おそらくそれが最も良い練習方法なのではないかと思います。個人として生きていくということも、結局はそういうことだと思います。ベンチャー企業であれば 自己実現できる機会がいっぱいあると思うので、積極的に自分から何か新しいモノをつくったり、アイデアを作ったり、実現したり、そういうことをトコトンすると良いと思います。

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